Scope2改定:CO₂排出量報告の基本となる電気料金メニュー別排出係数への影響は?
Scope2改定:CO₂排出量報告の基本となる電気料金メニュー別排出係数への影響は?
- 2027年改訂予定のGHGプロトコルScope2ガイダンスによりCO2排出量の算定が厳格化され、電力需要家・小売電気事業者・発電者に大きな影響が出る可能性があります。
- いち早く対策を講じていただけるよう、当社は独自に最新情報を分析し、皆様にアドバイザリー・サービスを提供しています。
温対法と省エネ法の関係性と排出係数
日本において、企業が自らのCO₂排出量やエネルギー使用状況を把握し、報告・改善していくための法制度は、主に二つの法律によって構成されています。
一つは、環境省が所管する地球温暖化対策の推進に関する法律(いわゆる温対法)です。もう一つは、経済産業省が所管するエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(いわゆる省エネ法)です。
省エネ法は、エネルギー使用量やエネルギー消費原単位の改善を通じて、効率的なエネルギー利用を促すことを目的とした法律です。省エネ法は、必ずしもCO₂排出量そのものを直接評価する制度ではありません。
一方、温対法は、一定規模以上の事業者に対して、温室効果ガス排出量を算定し、国に報告・公表することを求める法律です。排出量そのものを「見える化」し、社会全体で削減を進めていくことが主眼に置かれています。
企業が使用した電力に伴うCO₂排出量は、温対法に即して、環境省が公開する、電力小売事業者・電気料金メニューごとの年間平均排出係数に基づいて算定することとなっています。
基礎排出係数と調整後排出係数の違い
環境省は
- 基礎排出係数
- 調整後排出係数
という2種類の係数を提供しています。
基礎排出係数は、各電力小売事業者の年間の電源構成を基に、実際に発電された電力量(kWh)と電源別のCO₂排出係数を掛け合わせて算出された、いわば物理的な平均値に近い係数です。設備容量や出力ではなく、あくまで実績の発電電力量ベースで計算されている点が重要です。年間平均という制約はあるものの、「その事業者が調達した電気は、平均するとどれくらいのCO₂を伴っていたのか」を示します。GHGプロトコルScope2のロケーション基準による算定法に即しています。
調整後排出係数は、基礎排出係数に対して、FIT制度に伴う非化石価値の扱いや、非化石証書など、制度的な調整を反映したものです。電力小売事業者がどのような制度的手段でCO₂削減に取り組んだかが、こちらの係数に反映されます。
厳格な基準が日本に適用されるとどうなるか
次に、現在議論している各案のうち、最も厳格な基準が日本に適用されるとどうなるかを考えてみたいと思います。
調整後排出係数には、いくつかの影響を受ける可能性があります。
地域アワリーマッチング:小売電気事業者が契約する再エネ電力発電所の実際の発電量のうち、電気料金メニューの適用を受ける需要家の消費と各時間帯で一致した(消費)電力量のみが、「ゼロエミッション」、すなわち排出係数ゼロとみなされるというルールになる可能性があります。
さらに、FITやFIPによる非化石電源は、標準供給サービス(SSS)として整理され、電力小売事業者が個別に調達していたとしても、特定の電気料金メニュー固有の排出削減努力とは見なされない可能性があります。(その非化石価値は、グリッド全体の利用者に均等に割り振られることになります。)つまり、公的資金の支援のない純粋な(フィジカル)コーポレート・PPA電源でアワリーマッチングされた部分しかゼロエミッションを主張できないという極めて深刻な事態となる懸念があります。
しかも、これらはいわゆる「インベントリー方式」によるものですが、「AMI」を主張するクラスター(metaやAmazon)も存在し、今のところその可能性は高くないとは思いますが、AMI方式では、単なる再エネ電源では許容されず、さらに「「グリッドに対する限界効用」あるいは「追加性」を有する電源しか評価しない」といった縛りがかかる可能性もあります。
また、残った部分(残余ミックス)の排出係数も、当該送配電網上に存在する、係数の高い火力電源(例えば石炭)などに寄せて算定される可能性もあります。
従って、この場合、小売電気事業者は、「再エネ電気料金メニュー」の2030年以降に提供する場合、あるいはゼロではないものの「低炭素電気料金メニュー」を組成するのはかなり高度なノウハウと費用を必要とされる可能性があります。
当社は、あまりに非現実的な厳格規定には反対する立場ですが、国際舞台での各クラスター入り乱れてのGHG Scope2改定の「落としどころ」は今のところ全く見えない状況です。当社では、時々刻々と変化するその見込みを分析しています。
算定検討委員会での議論の行く末は
環境省は、これまで「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法検討会」を適時開催し、検討会では、より精緻な算定手法についても実際に検討・議論が行われてきました。

そこでは、全国一律で無償かつ安定的に提供できる制度基盤が当時は未整備であり、義務的な排出量算定に用いるには実務上の課題が大きいと整理されました。その結果として、現行の温対法制度では、より単純で再現性の高い排出係数の仕組みに落ち着いています。
しかし、その一方で、DX・GXは日進月歩で加速化し、検討会から一定の時間が経過し、電力分野においてもデジタル化が進展しています。
スマートメーターや需給管理システムの高度化により、時間帯別の需要・供給データが取得可能になってきているという見方もできます。
加えて、国際社会では、ロケーション基準においては時間帯別排出係数の導入、マーケット基準においてはアワリーマッチングの導入を求める動きが強まりつつあります。
こうした状況を踏まえると、将来的には、政府が一定の前提条件の下で時間別排出係数を取りまとめ、公的に公表するという選択肢も、可能性の一つとして考えられます。その場合、電力小売事業者や需要家に与える影響は大きく、制度対応とビジネス戦略の双方の観点から、早期に検討を始める意義は小さくありません。
小売電気事業者の生き残り戦略:需要家向けサービスの高度化で差別化を
Scope2の改定が厳格なものとなり、主にアワリーマッチングと時間帯別排出係数の導入がなされた場合、電力小売事業のビジネスが新たな局面に入るかもしれません。単に電力を仕入れて販売するという従来型のブローカーモデルは立ち行かなく可能性があります
❶「リアル再エネ」電気料金メニューの開発
第一に、新基準をクリアした「リアル再エネ電気料金メニュー(再エネアワリーマッチング™メニュー)」の開発です。そのためには、長期的視点で電源を確保する先読み力が求められます。
安定電源(主に原子力・火力発電)を3年前までに50%確保することが義務化される議論が進んでいる一方で、再エネ電源を同時に抑えると、過剰在庫を抱えることになりかねません。また、貴重な非FIT・非FIP電源をコーポレートPPA形式で確保するにはコストがかかり、顧客需要家に価格転嫁できなければ逆ザヤが発生します。
一方で、うまく組成できれば、高額のプレミアムが期待できるのも事実です。いわゆるハイリスク・ハイリターン型ビジネスモデルです。
デリバティブ(コール・プットオプション取引)などの金融手法の活用など、さまざまな手法で、コストとリスクをできるだけ抑えながら良質の電源確保し、リターンを挙げていくノウハウが求められます。このノウハウは、簡単に模倣できるものではありません。当社の再エネアワリーマッチング™サービスを是非活用いただければと思います(注:再エネアワリーマッチング™は当社独自のソリューションです。ただし、当社自身が金融アドバイザリーを行うものではありません)。
❷顧客の排出量削減に向けたソリューション営業の強化
第二に、「実質再エネ」から「リアル再エネ」へのパラダイムシフトの中で、不安を感じられている産業用需要家や公的機関の皆様が少なからずいらっしゃいます。当社にも、大口需要家から直接相談が持ち込まれることもあります。
従って、小売電気事業者の皆様には、予測される改定内容に対する理解を深めていただき、大口顧客に寄り添って、新基準でのCO2排出量の見通しを推定し、その削減に向けたソリューションを提供することで、競争力を確保されることをお勧めします。
今までの炭素会計ビジネスは、「係数と活動量をできるだけ効率的に集め、掛け算して足すことができるか」がコアコンピテンスでしたが、単純に、年間係数と電力消費量を掛け合わせるだけでは立ち行かなくなると思われます。見かけの良いダッシュボードの提供だけでなく、顧客の電力消費の実態に合わせた排出量の精緻な算定と、将来予測のノウハウが競争力の中核となるでしょう。
そのうえで、デジタルを活用した削減手法の提供も重要です。例えば、「リアル再エネ電源」が調達しやすい時間へのタイムシフト誘導などを、電気料金や割引制度での金銭的インセンティブ付与と同時に、非金銭的インセンティブを付与する行動変容手法の活用があり得ます。
特に、大企業顧客は、事業所数や部門数、従業員数が多く、その行動変容を促す仕組みや手法への潜在的なニーズが高いと思われます。
株式会社電力シェアリングの提供するサービス
当社は、2018年から2025年まで環境省から受託した事業において、DXと行動変容手法の組み合わせで、電力消費のCO2排出量削減のメソッドを開発してきました。
詳細は、以下の当社記事をご覧ください。
既存顧客を含め、アンテナの高い需要家との関係性を早期に築き、ソリューション営業を強化することで、調達する電源の管理も容易になります。
これからの小売電気事業者には、再エネ電源と需要家がアワリーでマッチできるような仕組みを整える「マッチメーカー」としての機能が求められてまいります。
そのためには、まずは情報収集と分析から開始し、2030年を見据えた事業戦略を立案するとともに、イノベーター発電者(蓄電者)、イノベーター需要家との関係性を強化しいていく道筋が有効かと考えます。
当社は、リーズナブルな価格でアドバイザリーサービスを提供しております。どうぞご相談下さい。